本領域では、先端顕微鏡技術と物理学の知識に動物行動学や進化生態学の理論と研究手法を新たに取り込むことにより、微生物が動く意味を統一的に理解する「微生物行動学」の創生を目指します。
本研究プロジェクトでは「A01 動きの計測」「A02 動きの物理」「A03 動きの設計図」という3つのアプローチを並列的かつ連携することで、三位一体となり研究を進めていきます。
細菌はどのように運動をしているのでしょうか?べん毛というらせん繊維構造を水中になびかせて泳ぐ仕組みはよく調べられています。けれど、一部の細菌はべん毛繊維を「体に巻き付けて」トンネル掘削機のように運動をします。私たちはこのドリル運動のダイナミクスを、べん毛繊維を蛍光色素で標識し、光学顕微鏡下で可視化します。
ドリル運動は実はとても重要な運動モードではないかと私たちは考えています。細菌は高等生物の中に侵入するもの多いですが、このような共生・病原性細菌からドリル運動が見つかっています。私たちのお腹の中のような
in vivo 環境において、細菌たちがグリグリと動き回る様子を高時空間分解能で定量化することで、ドリル運動の意味を探ります。
電気通信大学
大学院情報理工学研究科基盤理工学専攻
中根 大介
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昆虫の腸の中における細菌の行動を再現性良く調べることは、簡単ではありません。どのようなサイズの腸管の中で、特徴的な行動が発現するのか。腸管の中はどんな環境のときに、活発に行動が生まれるのか。こうした、定量的な行動解析をおこなうために、この研究では人工的に細菌の行動環境、例えば細菌のランニングトラックを構築し、詳細に行動解析を行います。
細菌のサイズは1マイクロメートル程度で非常に微細ですので、ランニングトラックを作るために、MEMS半導体加工技術を利用します。図に示すように、幅1マイクロメートルほどの長い線をフォトレジストをリソグラフィ技術で整形します。その上に、樹脂を流して長い線を型取りします。最終的に、樹脂構造をスライドガラスの上に配置することで、細菌のランニングトラックとして機能する、マイクロ流路を形成することができます。
本研究では、この方法で様々な機能を持つ流路構造を形成し、細菌の様々な運動・行動を解析してゆきます。
電気通信大学
大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻
菅 哲朗
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細菌がべん毛を体に巻きつけてドリルのように狭いところを進む運動は、特定の細菌が特別な状況で行う特殊な運動ではありません。こんなことが起きるとわかるやいなや、色々な細菌で次々とドリル運動が見つかっています。じつは、in
vivoではとてもありふれた運動なのかもしれません。すると、重大な疑問が湧いてきます。それらはみな同じ仕組みで起きているのか?もしそうならば、その共通の仕組みとはどんなものなのか?
後者の疑問に答えるためには、物理学が威力を発揮します。私たちの研究班は、生物の個性には目をつむって、力学的に興味深い要素だけを残したメカニカルモデルを構築し、研究を進めています。数理モデルにもとづく理論解析、計算機シミュレーション、マクロ模型による物理実験、という三つの定量的手法を組み合わせて、ドリル運動を可能にする細菌のメカニカルデザインを解明しようと頑張っています。
立命館大学
理工学部
和田 浩史
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生物の運動を観察すると、真っ直ぐ進んでいたと思ったら突然方向転換をしたりと、デタラメな動きをしているように見えると思います。しかし、その動きのデータをたくさん集めて解析すると共通の動きのパターンがみえてくるのです。また、個体が集まったときには集団としての運動のパターンを示すこともあります。
私は微生物の運動を数理モデルで表し、進化生態学の観点からなぜその動きのパターンがよいのかといった進化的利点を明らかにする研究を行っています。微生物が長い時間をかけて進化的に獲得してきた動き方を解明することで、生物の行動に共通したうまく生きる戦略が見つかることを期待しています。
同志社大学
文化情報学部
阿部 真人
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私たちがさらさらに感じる水は、微生物にとってはねばねばの液体です。ミクロな世界で生きている微生物は、私たちの日常とは異なる戦略を用いて単純な動作から巧妙な機能を生み出しています。
鞭毛はミクロな世界で動いたり、流れを生み出したりするための動力装置であり、微生物から人の体内に至るまで、種を超えて生物に備わっている重要な器官です。顕微鏡を用いて鞭毛の形状を測定したり、光ピンセットを用いて鞭毛に生じる力を測定することにより、鞭毛の力学的性質と動きの関係を解き明かします。また、多細胞生物であるボルボックスに着目し、各細胞の単純な動作から個体として高度な機能が出現する仕組みについて、物理学的視点から探ります。
東京農工大学
大学院工学府生体医用システム工学専攻
村山 能宏
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細菌はどうしてドリル運動をするのでしょうか?これまでの研究から、細菌たちは粘性の高いネバネバの環境になるとドリル戦車運動を始めることがわかってきました。ネバネバの環境と言ってもあまりピンとこないかもしれませんが、実は私たちヒトも含め、動物の腸内はネバネバの粘液であふれています。
ホソヘリカメムシというダイズの害虫は、Burkholderiaという土壌細菌と共生をしています。私たちの調査により、この細菌がカメムシ腸内のネバネバ環境をドリル運動で突き進み、狭窄部(CR:
Constricted
Region)と呼ばれる狭い関門を突破することで、はじめて共生が成立することがわかってきました。どうやら、この細菌はホソヘリカメムシと共生するためにドリル運動を使っているようです。私たちの研究班では、共生細菌の遺伝子を調べて、彼らがドリル運動するための設計図を探り当て、その背景にある進化史をひも解いていきます。
産業総合技術研究所
生物プロセス部門
菊池 義智
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私のバックグラウンドは、ゲノム解析や分子進化・分子系統解析などのバイオインフォマティクスです。しかし、2013年にホソヘリカメムシ共生系と出会って以降、本共生系をはじめとする昆虫-微生物共生のおもしろさに惚れ込み、昆虫や細菌を対象としたさまざまな実験も行うようになりました。このようなドライ・ウェットの研究背景を強みとして、班が目指す「ドリル運動の設計図の解明」に注力します。
本プロジェクトでは、ドリル運動ができる細菌とできない細菌間で遺伝子レベルの情報を比較し、ドリル運動に関わる遺伝子の候補を絞り込みます。これら候補遺伝子や、他班の解析結果からドリル運動への関与が示唆された遺伝子を対象に改変を行います。遺伝子改変技術を駆使して作製したドリル運動不全株を班員および他班と共有し、運動観察やカメムシへの感染実験を通して、当該遺伝子のドリル運動への関与を実証していきます。
秋田県立大学
生物資源科学部
竹下 和貴
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生物はなぜこれほどまで多様な性質を示しているのか。私は進化生態学を背景に主に社会性を持つ昆虫の行動形質に着目してその進化的要因を明らかにすべく研究を進めています。具体的には、昆虫の持つ振る舞いについて適応的な意義の検証や提示を行っております。近年では、アリの共生細菌に着目して社会と細菌共生との関係性について研究を行っています。本プロジェクトでは、ドリル運動はなぜ進化したのか、その進化的要因について領域メンバーとの知見を統合した仮説検証型の実験を通して明らかにしていきます。
琉球大学
農学部亜熱帯農林環境科学科
下地 博之
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