OBJECTIVE 本研究領域の目的
今から350年前、レーウェンフックは人類で初めて微生物を発見しました。この時代、生命科学は十分に発達しておらず、微生物の純粋培養さえ確立されていませんでした。では、なぜ彼は小さな物体が “生きている”と認識できたのでしょう?この理由は「うごき」にあります。彼が自作した顕微鏡は解像度が高く、微生物が動き回る様子を観察することができたのです。彼は、1滴の池の水の中に無数の微生物をみました。それは、微生物の発見であると同時に、その動きの発見でもあったのです。
現代、微生物の動きに関する研究は生物工学、物理学、博物学が融合し、学際的な一大分野として隆盛し、動きの詳細な観察や運動装置の原子レベル構造の解明、力発生のメカニクスについて、多くの研究が展開されてきました。ところが、レーウェンフックの時代から大きな技術的進歩があるにも関わらず、「なぜこの小さな生命体は動き回る必要があるのだろうか?」という、素朴で本質的な問いに、私たちは今なお十分な答えを持ち合わせていません。
従来、微生物が暮らすミクロ環境への実験アプローチは容易ではなく、その行動や生態、進化はこれまでまともに扱われてきませんでした。近年、顕微鏡技術のみならず高感度カメラのセンサ技術が革新的に進歩しており、個々の微生物の行動を広範囲・高速度に捉えて解析できる時代が、今まさに到来しようとしています。本領域では、先端計測技術と物理学の知識に動物行動学や進化生態学の理論と研究手法を新たに取り込むことにより、既存の学問分野の枠を超えて、微生物が動く意味を統一的に理解する「微生物行動学」の創生を目指します。